例えば、住宅の設計過程では、建て主の要望や条件をヒアリングして、こちらで考えたプランニングを提案して、それについて、ああだ、こうだと何度もやり取りをする。設計を依頼されているということは何らかの共通の価値観なりが土台としてあるわけだ。住宅雑誌で見た住宅が気に入ったから、それと同じような雰囲気でと言われると、土俵がある程度設定される。ただ、私の場合、最初から土俵を小さくしないようにしていて、お互いの先入観で物事が決まっていかないように注意している。常識にとらわれず、その都度考え直して、この敷地ならでは、この家族ならではの住まい方を探したいと考えている。設計の希望をすべて満足する提案が出来ることは少なく、要望の優先順位が変われば、プランニングも当然違ってくる。予算に合わせるために相当の荒治療をする必要もある。ローコストだから粗末な住宅で我慢してとは、プロとして絶対口にしたくない。設計者は、間取りをして外観をデザインして終わりではなく、その何十倍の時間をかけて様々なことを検討するし、現場が始まれば何度も現場に足を運ぶ。

実は、普段の仕事としての設計の説明をするのが目的ではなく、このエッセイのページでは、この条件ではこうで、そちらの条件を優先すればこうなりますというようなことをやめて、反論を覚悟で思ったことをなるべく簡潔に書いてゆきたいと言うことが目的である。請うご期待。