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建築家の独り言
デザインの「筋」
中央区役所に用事で立ち寄ったとき、「デザインの筋」という観点から見て対照的な建物を見つけたので写真にとってみた。
最近亡くなられた世界的に著名な建築家丹下健三氏設計の旧・電通本社ビル(1967年竣工)である。正面に見える柱梁の格子が4列並んでいるよと言わんがために、左の妻壁に梁の端部が覗いている。構造的にはそこまで延ばさなくてもよいのであるが、「デザインの筋」としてはぜひとも見せたい端部なのである。
電通ビルと同じならびにある公共建築であるが、設計者はわからない。いろんな事情があって建築というものは成り立っているので、「デザインの筋」からだけでどうこういうのは酷な面もあるので敢えて調べていない。あくまで私の「デザインの筋」という観点から言わせて頂くと、筋が通っていないのである。
上層階の周辺はグレーのタイルが張ってあってアルミパネルの部分を囲っているのであるが、3階の床レベルでぷつんと切れている。1,2階部分は明るい色の御影石が張られているのであるが、上層部を支えている感じがまったくしない。裏に廻ると1,2階の中央部分に、予算の関係であろうか、御影石の代わりに同じグレーのタイルが張られていて、仕上材料の使い方がまったく意味不明なのである。
グレーのタイルの意味として、上層階の周辺部を補強するために使われているとすれば、地上から積み上げた重量感のある構造体として表現するのが「筋」であろう。3階の床で止めるのであれば、1,2階の御影石が上層階を支えているという表現が必要であろう。当然御影石の開口部のデザインも上層階とは異なるべきだと考える。だから、私は筋が通っていないという印象を受けてしまうのである。
現代では表面の仕上材と構造体は別物になっているので、仕上としてどういう材料をどのように使おうが建物は出来てしまうのであるが、私は「デザインの筋」というものは通したいと思っている。構造体と仕上は別物だという今の状況を表現に使う手は十分考えられることだが、「筋」を理解したうえで可能な手段なのである。